人の心に灯をともす 5937 パラダイムの転換
【パラダイムの転換】5937
《いったい、何が起きているのか?》
2023年5月下旬のある日、私はオランダの首都、アムステルダムを訪れていました。
オランダからデンマークへと巡りながら、欧州の中でもひときわ先進的なサステナビリティに関する取り組みを推進する企業のリーダーたちとの対話を通じて「ビジネスの未来」について考える、というのがツアーの目的です。
ツアーで訪問するリサーチ対象の候補となった会社の一つに、2013年にアムステルダムで創業されたスマートフォンのスタートアップ、フェアフォンがあります。
現在、日本ではサービス展開をしていませんが、欧州では着実にファン層を形成し、市場において一定の存在感を示すまでに成長しています。
言うまでもなく、スマートフォンは、アップルやサムスンといった強大な企業がしのぎを削る非常に競争の激しい市場です。
そのような市場に、資金力でもブランド力でも技術力でも劣るスタートアップが参入し、10年のあいだ生き残る・・・どころか一定の存在感を 示すまでに成長しているのです。
彼らはどのような価値を提供することで、この競争の激しい市場において、一角を占めることができたのでしょうか?
フェアフォンが市場に提示しているのは「ライフサイクルを長期化することで資源・環境に関する負荷を低減する」というビジョンです。
具体的に、既存のスマートフォン・ メーカーとの主な違いは次のような点になります。
《サステナブルな設計》
モジュラーデザインを採用し、ユーザー自身が部品を容易に交換・アップグレードできるように設計することで、製品のライフサイクルを延ばし、廃棄物の削減に貢献するする
《リペアラビリティ(修理しやすさ)》
既存の多くのスマートフォンが接着剤の使用や構造の複雑性等の理由によって修理が事実上不可能なものがほとんどである中、ユーザー自身によって容易に修理できるようにする
《透明性》
部品の原料供給元や製造過程、コスト構造などを公開することで、企業の透明性を高める
《サプライチェーンのフェアネス》
供給チェーン全体にフェアネスを求める。
鉱山労働者の権利を尊重し、紛争地域での資源の採掘を避けるために取り組む
《ビジョンとミッション》
企業の目的を、単にスマートフォンを売ることではなく、電子製品の生産と消費に関連する社会的・環境的な問題に取り組むことに置く
これらのフェアフォンによる取り組みを並べてみて、奇妙な特徴があることに気づかれたでしょうか?
そうです、これらの取り組みのうち、何一つとして、マーケティングが非常に重視する「顧客便益」の向上につながるものがないのです。
「モジュラーデザインの採用」も「ライフサイクルの延長」も「リペアラビリティの向上」も、直接的に顧客に何らかの便益を与えるものではありません。
言うなれば、フェアフォンは、既存の競合メーカーに対して、後発として差別的優位になるような顧客便益を、何一つとして提供していないまま、参入に成功したのです。
これは驚くべきことです。
もちろん、アップルやサムスンといった大手スマートフォン・メーカーもサステナビリティに関する取り組みを進めてはいますが、フェアフォンとは取り組みの位置付けが異なります。
アップルやサムスンにおいて、競争優位の形成は主に、デザイン・技術革新・ブランド・マーケティングの強化によって追求されています。
一方で、フェアフォンの場合、これらのサステナビリティに関する取り組みそのものが、顧客を惹きつける要因、競合に対する競争優位を生み出す意味を形成しているのです。
『クリティカル・ビジネス・パラダイム』プレジデント社
https://q.bmd.jp/91/119/5297/__no__
本書の中で山口周氏はこう語る。
『古典的なマーケティングのセオリーでは、新規事業を策定する際、まずはターゲット顧客を設定し、彼らの「満たされていない欲求」を特定するところからプランニングをスタートすることを定石として教えています。
しかし、フェアフォンと同様に、テスラやGoogleやアップルの市場参入の状況に照らし合わせてみれば、彼らがいかに戦略論やマーケティング理論の定石とは異なる思考様式でスタートしているかということがよくわかると思います。
何といって も、テスラやGoogle が満たそうとするウォンツやニーズを抱えている顧客は、市場参入時点で存在しなかったのですから。
しかし、この定石外れのアプローチで事業をスタート した企業が、今日の社会において大きな存在感を放っているのです。
これらの企業が短期間に非常な成長を遂げた理由は一つしかありません。
それは、「市場に存在しない大きな問題を、企業の側から生成することに成功したから」です。
一般的に、マーケティングやデザイン思考では「市場に存在する問題を見つける」ことがプランニングの初期段階で重視されますが、これらの企業は「新たな問題を発見」したのではなく「新たな問題を生成」したのです。
しかし、ではどのようにして、彼らは市場に新たな問題を生成したのでしょうか。
答えは「あたかも哲学者やアーティストのように、社会を批判的=クリティカルに眺め、考えることによって」です。
彼らは、それまで誰もが「当たり前だろう」「まあ仕方ないよね」の一言で済ましてきた様々な社会の事象や習慣や常識を批判的に考察し、現状の延長線とは異なる別の社会のあり方を提示することで、市場に新たな問題を生成したのです。』
山口氏は、それらの現象を「パラダイムの転換が起きている」という。
これからの企業の活動は「社会運動」「社会批評」としての側面を強く持つことになるからだ。
社会で見過ごされている不正義や不均衡を批判し、改善するための行動を起こすことによって価値を創造する、ということだ。
「パラダイムの転換」と言う言葉を胸に刻みたい。
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《いったい、何が起きているのか?》
2023年5月下旬のある日、私はオランダの首都、アムステルダムを訪れていました。
オランダからデンマークへと巡りながら、欧州の中でもひときわ先進的なサステナビリティに関する取り組みを推進する企業のリーダーたちとの対話を通じて「ビジネスの未来」について考える、というのがツアーの目的です。
ツアーで訪問するリサーチ対象の候補となった会社の一つに、2013年にアムステルダムで創業されたスマートフォンのスタートアップ、フェアフォンがあります。
現在、日本ではサービス展開をしていませんが、欧州では着実にファン層を形成し、市場において一定の存在感を示すまでに成長しています。
言うまでもなく、スマートフォンは、アップルやサムスンといった強大な企業がしのぎを削る非常に競争の激しい市場です。
そのような市場に、資金力でもブランド力でも技術力でも劣るスタートアップが参入し、10年のあいだ生き残る・・・どころか一定の存在感を 示すまでに成長しているのです。
彼らはどのような価値を提供することで、この競争の激しい市場において、一角を占めることができたのでしょうか?
フェアフォンが市場に提示しているのは「ライフサイクルを長期化することで資源・環境に関する負荷を低減する」というビジョンです。
具体的に、既存のスマートフォン・ メーカーとの主な違いは次のような点になります。
《サステナブルな設計》
モジュラーデザインを採用し、ユーザー自身が部品を容易に交換・アップグレードできるように設計することで、製品のライフサイクルを延ばし、廃棄物の削減に貢献するする
《リペアラビリティ(修理しやすさ)》
既存の多くのスマートフォンが接着剤の使用や構造の複雑性等の理由によって修理が事実上不可能なものがほとんどである中、ユーザー自身によって容易に修理できるようにする
《透明性》
部品の原料供給元や製造過程、コスト構造などを公開することで、企業の透明性を高める
《サプライチェーンのフェアネス》
供給チェーン全体にフェアネスを求める。
鉱山労働者の権利を尊重し、紛争地域での資源の採掘を避けるために取り組む
《ビジョンとミッション》
企業の目的を、単にスマートフォンを売ることではなく、電子製品の生産と消費に関連する社会的・環境的な問題に取り組むことに置く
これらのフェアフォンによる取り組みを並べてみて、奇妙な特徴があることに気づかれたでしょうか?
そうです、これらの取り組みのうち、何一つとして、マーケティングが非常に重視する「顧客便益」の向上につながるものがないのです。
「モジュラーデザインの採用」も「ライフサイクルの延長」も「リペアラビリティの向上」も、直接的に顧客に何らかの便益を与えるものではありません。
言うなれば、フェアフォンは、既存の競合メーカーに対して、後発として差別的優位になるような顧客便益を、何一つとして提供していないまま、参入に成功したのです。
これは驚くべきことです。
もちろん、アップルやサムスンといった大手スマートフォン・メーカーもサステナビリティに関する取り組みを進めてはいますが、フェアフォンとは取り組みの位置付けが異なります。
アップルやサムスンにおいて、競争優位の形成は主に、デザイン・技術革新・ブランド・マーケティングの強化によって追求されています。
一方で、フェアフォンの場合、これらのサステナビリティに関する取り組みそのものが、顧客を惹きつける要因、競合に対する競争優位を生み出す意味を形成しているのです。
『クリティカル・ビジネス・パラダイム』プレジデント社
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本書の中で山口周氏はこう語る。
『古典的なマーケティングのセオリーでは、新規事業を策定する際、まずはターゲット顧客を設定し、彼らの「満たされていない欲求」を特定するところからプランニングをスタートすることを定石として教えています。
しかし、フェアフォンと同様に、テスラやGoogleやアップルの市場参入の状況に照らし合わせてみれば、彼らがいかに戦略論やマーケティング理論の定石とは異なる思考様式でスタートしているかということがよくわかると思います。
何といって も、テスラやGoogle が満たそうとするウォンツやニーズを抱えている顧客は、市場参入時点で存在しなかったのですから。
しかし、この定石外れのアプローチで事業をスタート した企業が、今日の社会において大きな存在感を放っているのです。
これらの企業が短期間に非常な成長を遂げた理由は一つしかありません。
それは、「市場に存在しない大きな問題を、企業の側から生成することに成功したから」です。
一般的に、マーケティングやデザイン思考では「市場に存在する問題を見つける」ことがプランニングの初期段階で重視されますが、これらの企業は「新たな問題を発見」したのではなく「新たな問題を生成」したのです。
しかし、ではどのようにして、彼らは市場に新たな問題を生成したのでしょうか。
答えは「あたかも哲学者やアーティストのように、社会を批判的=クリティカルに眺め、考えることによって」です。
彼らは、それまで誰もが「当たり前だろう」「まあ仕方ないよね」の一言で済ましてきた様々な社会の事象や習慣や常識を批判的に考察し、現状の延長線とは異なる別の社会のあり方を提示することで、市場に新たな問題を生成したのです。』
山口氏は、それらの現象を「パラダイムの転換が起きている」という。
これからの企業の活動は「社会運動」「社会批評」としての側面を強く持つことになるからだ。
社会で見過ごされている不正義や不均衡を批判し、改善するための行動を起こすことによって価値を創造する、ということだ。
「パラダイムの転換」と言う言葉を胸に刻みたい。
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