人の心に灯をともす 4138 「世界一」の卒業遠足

【「世界一」の卒業遠足】4138



東京学芸大学附属世田谷小学校教諭、沼田晶弘(あきひろ)氏の心に響く言葉より…


ここは2015年の6年1組の教室。

給食が終わって、子どもたちが「ごちそうさま」の挨拶をすると同時に、ボクがノートパソコンで、ももいろクローバーの「行くぜっ!怪盗少女」を流します。

教室に設置されたスピーカーから、ノリのいいリズムが響き渡ります。

子どもたち38人が一斉にいすを動かし、ほうきで床を掃き、ぞうきんがけをします。

最大の見せ場はサビの部分です。


《笑顔と歌声で 世界を照らし出せ~♪》


ここで全員、ほうきとぞうきんを床に置き、ももクロの振りそのままで激しくダンスします。

見事に揃ってキレもいい。

サビが終わると、スパッと掃除に戻ります。

これを繰り返しながら掃除を終えて、最後は全員の手拍子で締め。


これがその年の夏、全国的に有名になった6年1組名物「ダンシング掃除」です。

この模様はテレビ朝日系のバラエティ番組「ナニコレ珍百景」や、フジテレビ系の「みんなのニュース」で紹介されました。

テレビを見た方は「何て変なクラスだ」と思ったかもしれません。

しかし、子どもたちにとっては毎日やっている活動なので、特に変わったことをしているという意識はなかったんです。


意外かもしれませんが、音楽をかけると掃除が素早くなります。

「行くぜっ!怪盗少女」の後、「星のカービィスカイハイ」「ルパン三世」のダンスバージョンなどを流してトータル7分くらい。

ボクが指示するのは、「曲が終わるまでに掃除を終えてね」、それだけです。


すると子どもたちは勝手に工夫し始めます。

どうすれば効率的に掃除できるか、ムダな動きを省けるかを、徹底的に研究するんです。

小学生にとっては、活動しながら時計を見たりして時間を意識するのは難しい。

曲をかければ、耳で自然と「活動を終えるまであとどれくらいか」を知ることができます。

実は大人も同じなんですよ。

朝の情報番組がそうでしょう。

毎日同じ番組をやっているから、このコーナーが始まるころには家を出ないと、みたいな。



早く掃除を終えれば、それだけ休み時間が増えたり、次の活動を始められたりするので、子どもたちにとってもメリットがある。

実際、ダンシング掃除で掃除のスピードはどんどん上がっています。


また、ボクは小学生の時、勉強が嫌いでした。

先生の言う通りやっても、なかなか楽しいと感じることができなかった。

だから小学校先生になった今、「どうやったら子どもにとって勉強が楽しくなるのか」をいつも考えています。

そこでボクが編み出した作戦が「アナザーゴール」です。


遠い最終ゴールでなく、目の前に達成しやすい「もうひとつの小さなゴール」を出してあげる。

それがクリアされたら、少し先にまた別の小さなゴールを出す。

これを繰り返しているうちに、あら不思議、いつのまにか大きな最終ゴールにたどり着いているというわけです。

アナザーゴールの秘訣は、子どもに、本来の目的とは違うように見えても、まずは意欲的に取り組める課題を与えることです。


2014年度の5年1組の時、社会科の地理で「日本について学ぼう」という単元がありました。

自分の好きな都道府県について調べよう。

いろいろな観光地について発表しようというものです。


…うーん、このままでは子どもたちは食いつきそうにない。

反抗期の5年生ならなおさらです。

「調べたきゃ自分で調べれば?」とか言われてしまいそうです。


その時の5年1組の「特徴」はこうでした。

(1)面白いと思ったことはとことんやる

(2)コンピュータが好き

(3)変なことや新しいことが好き

(4)リアルな世界に触れるのが好き 

教室の中だけで「よくできました」と褒められるより、学校の外に出て、大人に感心されるのが好き。

(5)ゲームが好き

やっぱり競争や勝負がなくっちゃ面白くない。じゃんけんだって、勝った時の報酬があるから燃えるんです。


以上のことは、ボクたちのクラスだけではなく、世の中の多くの小学生にも当てはまると思います。

そこでボクが子どもたちに提案したのが、「勝手に観光大使」というプロジェクトです。

子どもたちが「勝手に」各都道府県の観光大使に就任し、その良さを「勝手に」アピールする、というものです。


アナザーゴールその(1)は、「勝手に」という言葉の面白さです。

この機を逃さず、まずは子どもたちに好きな都道府県を選ばせました。

おじいちゃんがいるとか、よく旅行するとか、一度行ってみたいからとか、理由はそれぞれです。

都道府県のかぶりはOKとしました。

担当者のいない空白県も結構ありました。

それはそれでいい。


「おーし、今からコンピュタールームに行こう。パワポでプレゼン資料を作るぞ!」

コンピュタールームとは、パソコンが複数台使える教室です。

ここで子どもに深く考えるヒマを与えないのが大事。


アナザーゴールその(2)は、「〇〇を調べよう」ではなく「パワポでプレゼンしよう」というところです。

子どもたちはパソコンを使うのが大好きです。

しかも飲み込みが早い。

初めてのソフトでも、すべてのコマンド、あらゆるボタンをどんどん試していきます。

この辺りの好奇心の強さは大人の比ではありません。


その後、パワポに習熟する子が出てくると、子ども同士の学び合いも起こりました。

うまい子のプレゼンをプロジェクターで大写しにすると、「どうやって作ったの?」と、別の子どもたちがその子のところに聞きに行く。

「おー、そんなことできるの!」「そのアイデアいただき!」と、競争意識も働いて、子どもたちの間で「勝手に」工夫が始まっていったのです。


「勝手に観光大使」の成果発表の場は、来場する保護者に各県の観光大使がそれぞれプレゼンする。

そして、「どこに一番行きたくなったかコンテスト」をやろう!とボクは言いました。


アナザーゴールその(3)は、「社会のお勉強」ではなく、あくまで「プレゼン力コンテスト」にしてしまったことです。

本来の教科書的ゴールは、「日本を学ぼう(社会)」「表現力をつけよう(国語)」の二つです。

でもボクは、その最終ゴールを子どもたちに示しませんでした。

代わりに与えたのが、「勝手に観光大使になる」「ネットとパワポでプレゼン資料作り」「大人にプレゼンしてコンテスト」という別々のゴールだったのです。


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本書に、リムジン送迎の「帝国ホテルでディナー」の遠足の話があった。


『2016年2月29日、月曜日。

6年1組にとって最大の記念すべき日は、暦の上でも4年に1度しか来ないスペシャルな日となりました。

午前8時10分、いつもの顔ぶれが教室に集まってきます。

子どもたちの荷物はみんなパンパンです。

今日はお弁当は必要ありません。

代わりにドレスや革靴、スーツやネクタイが詰まっているのでしょう。

なぜって?

日本一の帝国ホテルで、ディナーの前にドレスアップするためです。

でもそれはまだ9時間も先の話。


ボクたちはこれから、1日かけて目いっぱい楽しむのです。

みんなで横浜を散策し、みんなでお笑いを鑑賞し、みんなで帝国ホテルに行ってディナーを楽しみ、みんなでリムジンを連ねて学校に戻ってくるのです。

このプロジェクトを聞いた大人の多くが、「ありえない」「さすがに無理でしょう」と本気にしなかった、そのすべてが、きょう実現するのです。

この卒業遠足をファイナルゴールとして、子どもたちは1年かけて数々のプロジェクトを達成してきました。

のべ40以上のコンテストに10000点を超える作品を応募し、個人とクラス単位での受賞を併せると、結果的に30もの賞を受賞しました。

稼いだ賞金は総額20万円以上。

それに元々ある学級費をプラスして、この遠足の全費用をカバーできました。

子どもたちは帝国ホテルとリムジンを自分の力で勝ち取ったのです。

当初ランチの予定だった帝国ホテルでの食事が途中でディナーに格上げされたのは、獲得した賞金が増えてきたことも理由の一つです。


ある他校の先生に、こんな質問を受けたことがあります。

「私だって行きたくなるようなすごい遠足です。しかし、私なら教師の立場を考えて、貯めたお金を社会貢献に役立てるように子どもに言ってしまうと思います。そこは迷わなかったのでしょうか」

おそらく、多くの先生が感じることだと思います。

ボクがいつも言う《世界一のクラス》って何?

何をしたら世界一なの?

あまりに抽象的すぎるのでは?

そんな疑問が出るのは当然です。

でも、ボクにははっきりした定義があります。

子どもたちが大人になって、友だちとの飲み会で、小学校時代の話になった時、「オレたちのクラスって、こんなに楽しかったんだぜ!」と目を輝かせて語ることのできるクラスが、ボクにとっての《世界一のクラス》です。

みなさんが小学校時代の思い出話をする時、普通はだいたい二つのことしか出てこないのではないでしょうか。

ひとつは「こんな変な先生がいたよね」という話。

もうひとつは、自分あるいは友だちが「やらかした」話。

給食をひっくり返して服を濡らしてパンツ一丁になったとか、そんな他愛のない失敗談です。

ボクが子どもたちに与えたいのは、いつでも開けられるタイムカプセルです。

「あの時、みんなで頑張ったような」という記憶は、何度でもプレイバックできる。

大人になってつらいことがあっても、それが胸によみがえれば、もう一度元気が出て、再び立ち上がれる。

子どもたちが貯めたお金を、社会貢献などに寄付するのも、尊いことだと思います。

でもボクは、子どもたちに強烈な成功体験をプレゼントするほうを選びました。

子ども時代の成功体験は、人間にとって大事な「自己肯定感」をはぐくみます。

成長しても、自分の力に誇りが持てるようになる。』



最初は引き気味だった帝国ホテルだったが、沼田氏が直接バイキングの支配人に情熱をこめて、このプロジェクトの説明をしたという。

そして、「一人でも他のお客さんに迷惑をかけるようなことがあったらその場で全員つまみ出してくださって結構です」と話した。

すると「ぜひお受けしたい。こういう機会に関われるのは、ホテルとしてもうれしいことです」と。


諸外国(欧米など6ヵ国)の子どもの中で、自己肯定感が一番低いのが日本だと言われている。

こんな素晴らしい授業があったら、多くの子どもたちの自己肯定感を高めることができるだろう。


すべては、自主性を尊重し、「自ら成長する力」を引き出す教育のたまものだ。

それは、様々なことにチャレンジする力も高めてくれる。

まさに、子どもだけでなく、大人の社会でも必要だ。


「世界一」の卒業遠足…。

やる気を引き出す教育をすれば「世界一」になれる。







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