人の心に灯をともす 3294 深く耕すこと

【深く耕すこと】3294


伊那食品工業会長、塚越寛氏の心に響く言葉より…


私が伊那食品工業に入社した頃には、寒天の市場もほとんどない状態で、「寒天業界で生きてゆけるだろうか」と不安ばかりでした。

当時は技術も未熟だった上に資金も乏しく、とても希望を持てる状態ではなかったのです。


とにかく、自分たちで寒天の需要を掘り起こすしかない。

そう覚悟を決めて、寒天を使ったお菓子をつくり、「こういう商品はいかがですか」とお菓子メーカーに売り込むことから始めたのです。

以来、伊那食品工業は寒天の新しい用途を徹底して追及してきました。

私は、このことを「深耕(しんこう)」と呼んでいます。


簡単に言えば、寒天はテングサやオゴノリなどを煮詰め、寒天のエキスを抽出して棒状や糸状、粉状に固めただけのものです。

しかし、どのようなものでも「深耕」すれば、奥行きは無限です。


例えば、ある時に、固まらない寒天ができてしまいました。

失敗作です。

でも、これを何とか使えないかと考え、この失敗作の量産技術を確立したところ、化粧品やソフトな寒天として、介護食にも用いることができました。

さらに、飲料などもつくりました。

この凝固力を抑えた「ウルトラ寒天」は今日では、広くいろいろな用途に使われるようになっています。


また、横浜市立大学医学部の杤久保修教授との共同研究で、寒天がメタボリック・シンドロームの改善に役立つことがわかり、メタボリック・ダイエット用の寒天製品もつくりました。

食事前に、180グラムの寒天ゼリーを摂取しておくと、メタボリック・シンドロームの改善に効果があるのです。


このように「深耕」を重ねるうちに、当社では、既に60件の特許を取得し、さらに多くを出願中です。

商品も1000種類を超え、お菓子メーカーから外食産業、医薬品メーカーへと市場も広がってきました。

もちろん、家庭用の「かんてんぱぱ」ブランドも、今日では売り上げの4割を占めるまでに成長しています。


当社は早くから「研究開発型」企業を目指しました。

と言うよりも、それしか生きる道がなかったのです。

既存の市場というものが、なかったわけですから、寒天という一つの素材を深く掘り下げることで、多くのお客様、いろいろな業界と結びつくことができました。


当社の強みは、新しい商品を開発して、自ら市場を創り出すところにあります。

そこでは、当社の製品が高いシェアを持てるわけです。

無益な安売り競争にさらされることもありません。

これが適正な利益を確保できることにつながります。


もう一つ、当社の強みがあります。

それは、工場に設置する生産機械をかなりの程度まで、自社でつくってきたということです。

最近でこそ、機械の大型化に伴い、外部の機械メーカーに依頼することも増えていますが、それでも小さな機械は自前で制作できます。

そのために、機械工学の専門家もいます。

多い時には、機械工作の部門だけで20名ほどの社員がいました。


これによって、オリジナルな生産設備が多くできました。

そのため、当社でヒット商品が生まれても、他社は簡単には真似ができなったようです。

さらに、機械工作の部門を持ったことで、機械のメンテナンス力も上がりました。

故障してもすぐ直せます。

改善も容易です。

このため、工場の稼働率も高くなりました。


自社で生産設備をつくることは、大きな競争力を生んでくれました。

これも元はと言えば、資金不足で機械が買えなかったことから発しています。

資金は有限でも、知恵は無限です。

私が「商売は知恵比べ」と言う所以(ゆえん)です。


『リストラなしの「年輪経営」』光文社




安岡正篤師の『易と人生哲学』(致知出版)の中にこんな一文がある。

『六十四卦の中に、「水風井(すいふうせい)」という卦があります。

「水風井」とは、物事が行き詰まり苦しくなった場合の答えが、「井」の卦であります。

行き詰って、どうにもならないときには、その事業、生活、人物そのものを掘り下げるより他によい方法がありません。

たとえば、井戸を掘りますと、初めはもちろん泥でありますが、それを掘り進めますと泥水が湧き出します。

それを屈せず深く掘り下げると滾々(こんこん)として尽きない清水、水脈につきあたります。

これが「井」の卦であります。

このように、困ったときには、いくら条件を並べて、よい方法がないかと探しても無駄であります。

自己を堀りさげるより他によい方法はありません。

本当によく反省し、修養すれば必ず無限なもの、滾々(こんこん)として尽きない水脈につきあたる、そうなると無限にこれを汲み上げることができるのであります』


我々は往々にして、困ったときは、あれやこれやと手を広げてしまう。

しかし、本当は、広げるのではなく、今自分の立っている場所を深く掘っていくことが必要だ。

本質は、広さではなく、深さにある。

見た目や、上っ面だけを広げても、芯のところに魅力やノウハウがなければ、じきに化けの皮が剝(は)がれる。


「深く耕すこと」

今の仕事、今やっていることから逃げず、その場を、深く深く、掘り進めたい。






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