人の心に灯をともす 4641 ウーバーとブラックキャブ

【ウーバーとブラックキャブ】4641



ブレイディみかこ氏の心に響く言葉より…


ブラックキャブと言えば、言わずと知れたロンドン名物のタクシーである。

あのコロンとした丸いレトロな車体と粋なコクニー英語を操る運転手。

わたしなども80年代に最初に英国でブラックキャブに乗ったときは、「ああ、わたしはほんとうにロンドンにいるんだ」とわけもなく感動したものである。


が、このブラックキャブがいま、「邪悪なナショナリズムと排外主義」の象徴と見なされかけている。

ことの発端は、配車サービス、ウーバーの英国進出だった。

ウーバーというのは、米国のウーバー・テクノロジーズが運営する自動配車サービスまたは配車アプリであり、一般の人々が自分の車を使って人を運んで収入を得ることができる。

ウーバーのサイトにドライバー登録を行っておけば、利用者がサイトから予約を入れるのだ。

利用料も通常のタクシーより2割から3割安く、スマホで近くにいるドライバーを見つけてタップするだけで車が呼べる気軽さもあり、めきめきシェアを拡大した。

手軽、早い、安いの三拍子が揃えばタクシーの市場を奪わないわけがない。


だが、客を奪われて面白くないのが昔ながらのブラックキャブの運ちゃんたちだ。

こちらは「世界で最も難しい」とも言われる試験にパスしてブラックキャブを運転するプロのドライバーたちだ。

彼らは、ロンドン市内約2万5千のストリートと、約10万の名所・建物・施設の位置を全て覚えて筆記試験に挑(いど)む。

また、それ以上に難しいという口頭試験では、面接官がランダムに上げる二つの地点の最短ルートを答え、そのルート上の全ストリート名や交差点などを即座に答えねばアウトだという。

この試験にパスするには何年もかかると言われ、脱落率7割という、激烈に大変な試験だ。


ところが、彼らが苦労して覚えたすべての情報をウーバーのドライバーたちはスマホのアプリで一瞬にして入手する。

彼らは空いた時間を使って小金を稼ぐバイト感覚で車を運転していることも多く、そんな素人にごっそり客を持っていかれ、しかも、タクシー界の価格破壊まで起こりそうな状況なのだからブラックキャブの運転手たちの危機感は半端ない。


ブラックキャブとウーバーの運転手たちには、人口統計上の違いがある。

ロンドン交通局の統計によれば、ブラックキャブ運転手の総計2万4618人のうち、約67.2%が白人のイギリス人だ(2017年2月8日現在)。

ミニキャブとウーバーの運転手は早計1万7857人のうち、白人のイギリス人はわずか7097人(約6%)という調査結果が出ている。

つまり、ブラックキャブVS.ウーバーのタクシー戦争に、昨今話題の「グローバル経済の歪(ゆが)みによって生ずる英国人と移民の対立の構図」が、わかりやすい形で顕現(けんげん)しているのだ。


実際、ウーバー運転手に対して人種差別的言葉を吐くブラックキャブ運転手が問題になったり、ウーバー規制を求めてブラックキャブが道路封鎖運動を行ったときも英国旗を掲げたりして「右翼的」と批判された。

EU離脱投票でもブラックキャブ運転手の大半は離脱派だった。


しかし、どんなクラスにも少数派はいる。

うちの連合いの古くからの友人、テリーは、ブラックキャブ運転手だが残留派である。

彼は祖父の代から生粋の労働党支持者で、とくにブレア元首相のファンだった。

ブレアといえばいまでは新自由主義の権化のような、現在の英国の格差や分断を生んだ張本人のような扱われ方をされ、昨年、「英国のEU離脱を撤回するために政界復帰する」と宣言したときも、「もう戻って来んでええ」「そもそも諸悪の元凶はお前」とほとんどの英国の人々から総スカンされた。

しかし、テリーはブレア復帰の可能性にワクワクしていたようで、「みんな彼の功績を忘れすぎ」と言って寂しそうにしていた。


テリーに言わせれば、ブレアの功績とはメリトクラシー(能力主義)社会の確立である。

多くの人々が「ブレアはあかんやった」という理由で彼はブレアを支持しているのだから、これはもう筋金入りのブレア派だ。

実際、ブレアの時代に成功した人はたいてメリトクラシーが好きである。


「俺は別にウーバーもいいと思うんだよね」

みたいなことをさらっと彼は言ってしまうのだが、実はもう半隠居の身分で、週に二日しかブラックキャブには乗っていない。


『ワイルドサイドをほっつき歩け』筑摩書房
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ブライディみかこさんの、おっさん愛の詰まった、思わずうるっときたり、くすっと笑ってしまうエッセー集。

イギリスで今起きている様々な問題…

緊縮財政、社会保障カット、EU離脱(ブレグジット)、競争社会激化、格差社会、人種差別、移民問題、ドラッグ、離婚、失業、パブ閉店、等々。

それらに右往左往する愛すべきおっさんたち。

これは、イギリスだけではなく、日本でも今起きている現実。


そして特に、「競争社会の激化」で象徴的だった話が、「ウーバーとブラックキャブ」。

何十年かけて取得した技術や経験も、AIやIT技術の進化によってあっという間に「無」になってしまう。

まさに、パラダイムシフトだ。


この現象が、タクシー業界だけでなく、今、ありとあらゆる業界で起こっている。

そして、もっというなら、自動運転が実用化されたら、ウーバーも、ブラックキャブもいらなくなってしまう。

業界がまるごとなくなってしまうかもしれない大変化だ。


今回のコロナ禍によって、その変化のスピードが加速された。

このパラダイムシフトを乗り切りたい。






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