人の心に灯をともす 5694 依頼心と甘えを捨てる

【依頼心と甘えを捨てる】5694



渡辺和子氏の心に響く言葉より…


ある人が、こんな話をしてくれました。

その人は、久しぶりに自分の友人を山の中に訪ねて行ったそうです。

積もる話に花が咲いて、いつしか日が暮れ、外は山のこととて天候が変わって嵐になりました。


久しぶりに訪ねて行った自分なのだから、一晩ぐらいは泊めてくれるだろう、そう思っていても一向にその気配がありません。

そこで、「遅くなったから、そろそろ帰ろうか」と言ったところが、友人は引き止めもせず、「山の麓まで送ってやろう」とも言わなかったそうです。

玄関の格子戸を開けると、外は真っ暗。

「暗いなあ」と言うと、友人は「暗いから気をつけて帰れよ」とだけ言って、懐中電灯さえ貸してくれません。


その人は真っ暗闇の中を、木の根につまずいたり、こけつまろびつ、山裾まで下りて行きました。

すると、そこでは雨もやみ、風も凪ぎ、月の光さえ射していたそうです。

そしてその時に、依頼心とか甘えをいっさい切り捨てた時に生まれる自分の力に気づき、何とも言えない清々しい気持ちを味わったと話してくれました。


これは一人の方の体験談ですけれども、私たちも往々にして、泊めてくれないとわかっていながらなお、見送ってくれるのではなかろうか、見送ってくれないとわかりながらも、せめて明かりぐらいは持たせてくれてもよさそうなものを、と思いがちです。

しかしながら、そういう未練や甘えといったものが一つひとつ拒否され、自らも最後の依頼心を捨て去った時に、案外、道がひらけてくるものです。

自力で何かを成し遂げた喜びというのは、甘えさせてもらった時に味わう喜びとは異質なものです。

それはちょうど、トンネルに入る前の明るさしか知らない人と、長く暗い、いつ果てるとも知れないトンネルを通り抜けて味わう、あの明るさを知った人との違いと言ってもいいかも知れません。


『幸せはあなたの心が決める』PHP研究所
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松下幸之助氏は著書「指導者の条件/PHP文庫」の中でこう述べている。


『鉄鋼王といわれたカーネギーが成功の秘訣を聞かれた時に、こういうことをいったという。

「それは、まず貧しい家に生まれることである。

というのは、この社会の荒波に身を投ずるにあたっては、やはり自分の力で泳ぎ切る覚悟がなくてはならない。

最初は1個の浮袋、1個の救命具、一粒の食物といえども携帯せずに進まなくてはいけない。

さもないと依頼心が起こってくる。

大切なのは独立心だが、貧しい家の子は、最初からそういう境遇にあるわけで、むしろ金持ちの子ははなはだ不幸だといえる」』


我々は、ここまでやったのだから何かしてくれるだろう、何かやってくれるだろう、というような甘い期待を持ってしまう。

そもそも、どんなに優しい人であっても、あるいは察しがいい人でも、何も言わないのに、その人の気持ちを分かる人などいない。

また、もっというなら、その人の気持ちを分からなければならない義務もない。

気持ちを分かって欲しいなら、言葉にして出すことだ。


「それくらい察して欲しい」というのは「甘え」であり、自分でしようとしないで、他人をあてにする「依頼心」が強いということ。

つまり、自立していないということ。

自立心がある人は、人のせいにしない。


世の中が豊かになればなるほど、人の依頼心は強くなり、甘い人間が増える。

「依頼心と甘えを捨てる」という言葉を胸に刻みたい。





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