人の心に灯をともす 5734 魔法の万能薬は存在しない

【魔法の万能薬は存在しない】5734




ブリタニー・ポラット氏の心に響く言葉より…


私が大学進学のために実家を出る前日のことだ。

祖母は私に、彼女らしいウイットをきかせた餞別の言葉をくれた。

「魔法の豆を売ってあげると言われても、買っちゃダメよ!」


私は意味がよくわからず、「それっておとぎ話に出てくるやつだよね?」などと思ってとりあえず笑っておいたが、実家を離れてから、何度もその言葉が頭に浮かんだ。

私はずっと、幸せになるには、いい場所に住んだり、いい見た目を手に入れたり、いい仕事に就いたりすればいいと思っていた。

しかし、そういう外面的な成功を手にするたびに、幸せは私の手からこぼれ落ちていった。


そのうち、どんな問題も解決してくれる魔法の万能薬は存在しないのだと悟った。

うますぎる話やそういう話を持ってくる人には懐疑的になるべきだということも、経験を通して知った。

そうしていつしか、人生とは努力をして、適切な判断を積み重ねていくことで初めて充実するのだと思うようになった。


私がストイシズム(ストア哲学)について知ったのは、実家を出てから15年ほどが過ぎたころで、そのときに真っ先に浮かんだのが祖母のことだった。

彼女の言っていた「魔法の豆」というのは、こういうもののことなのだろうかと思ったのだ。

ストイシズムについて読み進めていくと、これはおとぎ話のような自己啓発の類ではないとわかった。

そうではなく、非常に示唆に富み、社会にしっかりと定着した、よい人生を送るためのシステムだ。


ストイシズムには、人生の意味を見出そうとする人や苦難に耐える人を助けてきた長い歴史がある。

ストイシズムは、ある意味、「魔法の豆」の対極をなすものだった。

ストイシズムの原則にのっとったストイックな生き方には、自制と内省が必要になる。


《「毎日1つずつ」成長する》


『人生の教科書ストイシズム STOIC』ダイヤモンド社
https://q.bmd.jp/91/119/1849/__no__






『偉大なものは突然生まれない。

一房のブドウや一玉のイチジクであっても、いきなり実ることはない。

いま「イチジクがほしい」と言われたら、わたしは「それには時間が必要だ」と答える。

まずはイチジクの花を咲かせ、次に果実をつけさせ、さらにそれを熟させる。

イチジクの果実ですら、ほんの一時間で熟すことはないというのに、それでもなお、それほど短い時間で、それほど簡単に、思考の果実を手に入れようというのか?』(エピクテトス/語録)


エピクテトスは古代ギリシャのストア派の哲学者だ。

ストア派の本の中でももっとも広く読まれ、影響力があると言われている。

奴隷階級の出身だったが、のちに解放され、哲学の学校を開いた。


何らかの果実を得ようとするならば、長期にわたる継続的な努力が必要だ。

まさに「魔法の万能薬は存在しない」ということだ。


毎日1つずつ、倦(う)まずたゆまず、コツコツと努力を重ねること。

積み重ねという「継続」こそが、果実を手に入れる唯一の道。


「魔法の万能薬は存在しない」という言葉を胸に刻みたい。






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